『檸檬』を読んで

檸檬梶井基次郎

 酸っぱい檸檬の香りを嗅いだ時、ふといつも爽やかな香りに交じって、何処かモヤモヤとした感情が浮んでしまうのは、きっと、気分が重かったり、考えすぎて眠れない夜に、いつも本棚の手の届くところに置いてある、檸檬の短編集を開いて読み始めてしまう癖があるから、なのかも知れなかった。

 梶井基次郎は、若くして肺を患っており、その病から出る熱の熱さや、苦しさが、小説の文章からも酷く伝わってくるのだ、だからその辛さにとても共感できるのだと思う。

 檸檬の冒頭にある『得体のしれない不吉な塊』には、私も良く遭遇する。

 私も場合は精神が特に不安定なときに、その不吉な塊に遭遇してしまう、心が落ち着かなくて、頭が酷くモヤモヤして、不安で何処かやるせない、そんな時。

 若々しくて爽やかな、檸檬の香りを思い出す。

 そして、その黄色い果実を何処で爆発させてやろうかと、考えるのだ。

 きっと作者の梶井基次郎も、何処かで心のうっぷんを爆発させたくて、この話を書いたのではないかな?と、私はいつも思っている。

 苦しい事が続くと、昔好きだったものさえ苦痛になってしまうことがある、作者にとってそれは沢山の好きで溢れていた、丸善だったのだろう。

 私は、どうだろうか。

 頭で檸檬と言う名の爆弾を置く場所を考える、置いてみたい所は沢山あるけれど、一番はやはり、勤めている会社の入り口だろうか?

 クレームやら、無茶な要求やら、有休が通らないことやら、嫌な事が起きる度に、こんな会社爆発しろ!って思っているけれど。

 実際に檸檬が会社の入り口で爆発したら、きっと面白い、私は何食わぬ顔で慌てている人たちを眺めながら通り過ぎ、一人になったら、ひとしきり笑って、カバンから檸檬を一つ取り出して、匂いを嗅ぎ心を躍らせるのだ、次はいつ仕掛けてやろうかなと。

 なんて、そんな妄想をしながら、檸檬の文庫本を開く夜はとても楽しい。

 

 青空文庫

檸檬梶井基次郎

https://www.aozora.gr.jp/cards/000074/card424.html

こちらから無料で読めますので、気になったら是非読んでみて下さいね。